・「慢性気管支炎」、「肺気腫」といった病気をご存じでしょうか?皆さんも一度は耳にしたことがある病気だと思います。日本では主に喫煙が原因(その他様々な有毒なガスや微粒子の吸入)となり、肺胞が破壊され、気道に慢性炎症を起こしてしまう病気です。現在では、「慢性気管支炎」と「肺気腫」をまとめて、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)と呼びます。
・近年、COPDによる死亡者数は頭打ちになっていましたが、2018年に1995年以降で最高値を記録しています。COPDは20年以上の喫煙歴を経て発症する病気です。日本でも過去の喫煙率上昇の影響がCOPDによる死亡者数を増加させてきたと考えられます。また、厚生労働省の統計で死因順位をみると、COPDの順位は男性で高く、2019年は第8位でした。年々喫煙者数は減少傾向にありますが、喫煙率は先進国内でも今もって日本は高い傾向にあります。「肺の生活習慣病」とも言えるCOPD。やはり、これからも身近な病気だと思います。
・長期にわたる喫煙歴がある方で、労作時(体に負荷がかかった時)の呼吸困難(例えば階段の上り下り、布団の上げ下げなど)や慢性の咳や痰がある場合はCOPDが疑われます。確定診断には呼吸機能検査が必要です。
できる限り頑張って1秒間に吐き出せる息の量を「1秒量」、できる限り頑張って吐き出した時の肺活量を「努力性肺活量」といいます。この1秒量÷努力性肺活量=1秒率といい、この値が気管支拡張薬を吸った後でも70%未満の場合、COPDの診断となります。また、気道が狭くなる他の病気(特に気管支喘息)の除外は必要ですが、ややこしいことに「COPDに気管支喘息が合併すること」もあります。
・治療の第一歩かつ最も大事なことは「禁煙」です。禁煙しても破壊された肺胞が修復されることはありません。ただ、原因を取り除くことは当然大事な治療。禁煙済みの方はもちろん禁煙を継続し、喫煙中の方はまず禁煙が最大の治療です。
また、この病気の場合、「いまある自分の肺とうまく付き合っていく」という考えが必要です。禁煙以外に気管支を拡げるための吸入薬(β刺激薬や抗コリン薬)や内服を投薬しますし、適度な運動や栄養管理なども大事な治療となります。特に適度な運動(特にウォーキングなどの下肢を使う運動)は重要です。まったく呼吸とは関係ないように思えますが、下肢の持久力を保つことはCOPDの治療では非常に効果的であり、生活の質の向上に役立ちます。
息苦しいからと安静を続けることは逆に悪循環に陥ります。禁煙や吸入・内服による治療を行いながら、適度な運動を行うことが非常に重要であり、このことが大事だからこそ「肺の生活習慣病」と言えると思います。
・禁煙しても、これまで喫煙してきた影響は消えるわけではありません。ただ、禁煙して、「今あるご自身の肺と仲良く付き合っていくこと」はできます。そのお手伝いをするのが呼吸器内科の役目です。